赤い 蝋燭
小嵐に 枯葉と紙くずが舞え走って、埃っぽい町。私は気持ちだけが焦って、ただ歩き回っていた。年の暮れも迫った夕暮れの町、クリスマスイブ、私はお金を作って、クリスマスケーキを買って帰ることになっていた。それができなかったのだ。当てにしていた会社は休みだった。ところには、電車賃しか残っていなかった。うちで私の帰りを待っている子供たちの顔が目に浮かぶ。もう寝ようのぞく 町の座跡を 当てもなく 歩き回った。私の中にだけ 灰色の壁が 拭きぬける。そんな年の暮れが何年も続いた。私は今でも 街のなかで聞こえるジングルベルの音が 憎らしい。いつか長女がクリスマスの思い出を 雑誌に書いたのを 読んだことがある。次のようなものであった。
クリスマスの前夜、父は金策に出かけたらしいが、不安になっても帰ってこなかった。食卓について、父の帰りを待っていたが、みんなお腹がすいた。母はあきらめて、食事を始めることにした。“お父さんは用事が足りなくて、遅くなるでしょうから、先にお食事をしましょう。”と言った。ケーキの置かれるはずの真ん中に、1本だけあった 大きな赤い蝋燭が立てた。母は “ごちそうがなくてもさびしいけれど、もっともっと貧しい家もあるのだから、みんなで元気にクリスマスの歌を歌って、お食事をしましょう。”と言った。
赤い蝋燭の焔が揺れて、きらきらと輝いて、食卓が にぎやかに見えた。この時のクリスマスイブが なぜか一番美しく思い出される。
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